看取り士日記(297)~家に帰りたい~

看取り士日記(297)~家に帰りたい~

2019年12月10日(火)8:24 午後

 風や空が澄みわたり、山の葉が黄色や赤に少しずつ色づき始めた時期であった。

 ご依頼者は、娘様。2年前から闘病生活と共に接骨院を営むお母様。入院前日は、開業記念日47年目であった。どんなに痛みがあって辛いだろうなと周りが思っても弱音を言うことはなかったお母様が、「もう、明日は無理かな」と言った。自分の足で立つことも出来ず、痺れ、感覚麻痺がある状態でも接骨院に行こうとしていた姿は決して忘れられないと旦那さまは言う。

 

 翌日、体の痛みに耐えることが出来ず、入院。余命が短いことを言われ途方にくれた。死への恐怖、冷酷さ、悲しみに溢れ日常会話も出来なくなっていた。時間は待ってくれない。最期は温かく迎えてあげたいと看とり士への御依頼。

 ご家族は、お母様の希望を聞いた。「家に帰りたい」。これに対しご家族は話しあった。在宅介護を決意した。

 

 私が、初めて伺ったのは自宅に帰られて翌日であった。

 玄関を開けると直ぐの居間にベッドの力を借りて座っておられた。とっても笑顔がチャーミングでお話をたくさんしてくださった。「やっぱり家はいいね」と。ご家族がいる家は良いと。ご家族の写真もたくさん飾ってあった。

 お母様は、旦那さまに「愛しているわ」と言っているのに聞こえないふりして何回も言わせるのよと微笑ましかった。

 94才のお婆様と縁側でお話をした。「自分の命と交換してやりたい。切ない気持ちで夜も眠れない」と胸の内を語ってくれた。

 

 かき氷を美味しいといって食べて、時代劇を楽しみ、夜は娘様がマッサージをしてくれる日々を過ごしていた。まだ、この日が続くと思っていたが、お母様は「最期は新幹線のようにビューって行くんだ」と言われていた通り、プロデュースされた。私が伺った時は臨終後だった。穏やかな、笑ってくれるようなお顔であった。

 私は、ご家族にしっかり抱きしめて頂いた。「こんなに温かくて、身近に感じられるんだ」お婆様にも抱きしめて頂いた。とっても温かい光景。命のバトンリレーであった。

 私にとっても最高のギフトであり、お母様と御家族の深い愛を教えて頂いた感謝 合掌

担当看取り士 小森光江

文責 柴田久美子



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