看取り士日記(300)~穏やかな臨終立ち会い~

看取り士日記(300)~穏やかな臨終立ち会い~

2020年03月10日(火)4:58 PM

 椿の花が美しい季節だった。

 94歳男性。依頼者は息子様。「看取り士さんが着くまでの間なにかできることがありますか?」「皆様でお体に触れてください」そうお伝えしたが柵の間から手を伸ばすことしかできずにおられた。到着すると直ぐにベッド柵を外す。これでやっとお父さんの傍に行ける、と次男様が大喜びをされる。お父様の脇に寝ても大丈夫とお伝えすると、添い寝をされたりほほ寄せられたり。

 父の傍らで一晩を過ごしたが「疲れていない」と気丈におっしゃる長男(ご依頼者)様。変化があったらすぐにお知らせするので、「今日はお任せ下さい」と申し出て、その晩は、お父様に寄り添わせていただく。

 

 事前に決められていた葬儀社に連絡する。「全員の方とのお別れが済んだ後、連絡するまで、ドライアイスを入れないように」と。

 実は次男様がお父様とのお別れが嫌だと言ってきたため延命措置をしてきたが、長男様としてはこれ以上父につらい思いをさせたくない。その葛藤を一身に受け、お父様もそれにこたえるように必死に頑張ってこられていた。

 その晩、何度も触れお父様を抱くなかで、次男様が「もういいよ。大丈夫だよ」と言えるようになっていった。単身生活が難しい次男様の面倒を最後まで見るからと長男様がお父様に約束をし、お父様の温かさ優しさを受け取り家族の愛が一つになった。その瞬間に、お父様は息を引き取られた。

「あ、お父さん今逝ったね」。安らぎが居合わせたご家族に広がる。

 次男様もお父様の胸に顔を埋め、お父様の死をそして再誕生をそのお体に受け止められている。

 やや過ぎたころ、膝枕した状態のままで、お医者様が確認。ご家族は落ち着いて静かにその言葉を聞き、「お父さん、無事旅立ててよかったね」と手を取り合った。

 

 ご自宅に帰られ、皆様にもう一度お父様に触れていただくよう促す。首の後ろから背中に触れていただくと「あっ、本当にあったかい」と驚きの声。何度でもご縁の方々に触れていただいて十分にお別れが済んでから、ドライアイスを入れていただくようにお伝えし、辞した。

 

 東の空が明るく輝き始めていた。父の慈愛の深さを教えて下さった利用者様に感謝、合掌    

 

担当看取り士 氏家美千代

文責 柴田久美子



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