看取り士日記(323)~胃ろうを抜いてご自宅へ~

看取り士日記(323)~胃ろうを抜いてご自宅へ~

2022年02月10日(木)4:44 PM

 

稲穂がたわわに実る頃。ご依頼者である長男様からのご連絡が入る。

2年前に食べることができなくなり、胃ろうの造設をされたお母様。現在はコロナ禍で面会できない日々が続く。そんな中、長男様は2年前にお母様が「家に帰りたい」と話されていた言葉を思い出され、幼い頃の夢を見るようになられた。

「胃ろうを抜いて家に帰してあげたい。支援して頂けますか」。

 

退院日に伺うと、お母様の喜びが伝わる。「お家に帰れて良かったですね。息子さんが、今日からお母様のお隣のベッドで休まれるそうです。たくさん甘えてくださいね」と伝えると、嬉しそうに瞳で頷かれれる。
退院翌日には、昨日よりまばたきが増えたとご家族が喜ばれる。リンゴジュースを少しあげたら嬉しそうだったと、スポンジで差し上げられていた。お母様のお部屋に集まり、みんなが一緒に食事をされ、お家での暮らしが始まった。

 

お母様の退院で久しぶりに集まられたご家族。みんなで菊人形を見に行くからと派遣のご依頼を頂く。お母様の呼吸は先日より荒かったが、呼吸合わせをすると落ち着かれる。
お留守番のお嫁様がお母様の思い出話をされる。「ねぇ、お母さん」と話しかけられると、お母様が微笑んで頷かれ、驚きと喜びに包まれる。

 

その後、呼吸が変わったので皆様に集まっていただき、おひとりおひとり看取りの作法をして頂く。娘様は「お母さん、お家に帰れて良かったね。ありがとう。幸せな人生やったね。お嫁さんのお蔭やね」、次男様は「お母さんの膝枕なんて、初めてや。ありがとう」、お孫様は「おばあちゃんは、いつも優しかった。ありがとう」、そして、ひ孫様は傍ではしゃいでおられる。その様子は、まるで天国のようだった。

当初は電話が繋がらず、やっとゴルフから戻られた長男様。実は、お母様ご自身が大のゴルフ好き。「きっと、お母さんがゴルフ行きたかったんだね」とみんなに迎えられ、照れながら看取りの作法をされる。
お母様は、みんなのありがとうのなかで、美しいお姿で旅立っていかれた。

 

ご家族を大切に生きてこられたお母様、お母様の願いを守られたご家族。ご本人の尊厳を守ることの大切さを教えていただいた皆様に感謝 合掌

 

担当看取り士 西河美智子

文責 柴田久美子

 

続編のエピソードとして、「324. 初七日訪問にて」を公開しています。ぜひあわせてご覧ください。

 

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