誰にでも必ず訪れる最期の時。旅立つ人、そして送る人、それぞれの想いが走馬灯のように駆け巡る。その時、どのように旅立ち、 どのように送るのか、予想することは難しい。それでも、「こうしたい」という思いは誰にもあるのではないだろうか? その希望は、 家族、パートナー、友人でも十分に理解し実行することは難しいことかもしれない。そんな希望を少しでも叶えるために近くでサポート してくれる人が存在するならば、その役割を知ることは、人生の最期を豊かにしてくれるかもしれない。 高齢化社会になり、そして人間関係が希薄になった今だからこそ、「如何に死の瞬間を迎えるのか?」ということを考えなければ ならない現代。『おくりびと』(08)は、亡き人を悼み送る納棺士の物語、『エンディングノート』(11)は、旅立つ者の終活、そして残される 家族へのメッセージを伝える物語だった。本作『みとりし』は、旅立つ者と送る者の最期の時間を温かく支える人々の物語である。
最期の旅立ち、家族とともに、そしてもしかしたら一人で逝く時、住み慣れた家、希望する場所で残された時間を過ごすため、心を 寄せ手助けをしてくれる人、それが「看取り士」である。看取士 は、医療行為はできないけれども、第三者であるが故に本人そして 家族たちの不安や心配を受け止め、静かに温かく傍にいてくれる存在として、「死」を迎えるそれぞれを助けてくれる。旅立つ人の 思いや愛を受けとめ、見送る人に受け渡し、納棺前までの最期に寄り添い、命のバトンをつないでいく。そんな看取り士たちの姿を 映像化したのが本作『みとりし』である。
看取り士という仕事は、一般社団法人「日本看取り士会」の代表理事を務める柴田久美子さんの提案から始まった。多くの方を 看取り、温かい時間を共に過ごしてきた経験を持つ彼女の著作「私は、看取り士。わがままな最期を支えます。」(佼成出版社) が『みとりし』の原案である。彼女が以前より旧知の仲であった本作の主人公・柴久生を演じる榎木孝明とともに、「いずれ、死生観 をテーマにした映画を作ろう」という想いを共有していたことをきっかけに、柴田氏の27年間の活動の集大成として映像化の話 が進んだ。 自然豊かな岡山県高梁市を舞台に、主人公・柴久生の生き方を通して「如何に生き、死を迎えるか」の意味を伝える。主人公の 看取り士・柴久生役には、主役からバイプレイヤーまでこなす榎木孝明。成長の過程を歩む新人看取り士・高村みのり役には1,200名 の中からオーディションで選ばれた新進女優の村上穂乃佳。そして、高崎翔太、斉藤暁、つみきみほ、宇梶剛士、大方斐紗子、櫻井 淳子等の演技派俳優が脇を固める。監督は『She's R ain』(93年)、『能登の花ヨメ』(08年)、『劇場版 神戸在住』(15年)、 『ママ、ごはんまだ?』(17年)などの数々の秀作を送り出してきた白羽弥仁。やさしく、豊かな時間が流れる備中高梁を舞台に最期 を見守る看取り士の姿から、“生きる希望”に共感できる作品が完成した。
看取り士(みとりし)
逝く人の最期に寄り添い、見送る人。また、家族だけでの看取りをサポートする人のことをいう。
本書は、25年ものあいだ、生と死に向き合い続けた看取り士・柴田久美子のエッセー。
日本人のおよそ8割が病院で最期を迎える一方で、その約5割が「自宅で最期を迎えたい」と願っているといわれる。
しかし、自宅で看取る文化が薄くなった現代社会では、看護・介護する側がその望みを叶えてあげたくても難しい事情があるのが現実だ。
こうした状況から、著者は「尊厳ある最期が守られる社会を創りたい」と願い、自らを「看取り士」と名乗った。
200人以上のケースをもとに、看取りの際の心構えや実際の触れ合い方に加え、エンディングノートの活用の仕方、
旅立つ人から魂(いのち)を引き継ぐ大切さなどを紹介。厚生労働省が在宅医療・介護への方針転換を始めた今、自らの、
そして大切な人のQuality of Death(QOD/死の質)を考え、より良い人生、より良い最期を送るための手引書となる。
巻末には、医師・鎌田實氏(諏訪中央病院名誉院長)との対談を収録。看取り士の誕生秘話をはじめ、死に対する二人の考え、
地域包括ケアという共通の夢について語り合う。
交通事故で娘を亡くした定年間際のビジネスマン・柴久生(榎木孝明)。家族ともバラバラになり、喪失感から自暴自棄になり、
自殺を図ろうとした彼の耳に聞こえた「生きろ」の声。それは切磋琢磨して一緒に仕事に励んだ友人・川島(宇梶剛士)の最期の声
だったと彼の“看取り士”だったという女性(つみきみほ)から聞かされる。聞き慣れない看取り士という職業に興味を持った柴は、
看取り士について訊ねる。そして、「お医者さんから余命告知を受けた方が最期をできるだけ安らかに旅立つことが出来るよう
お手伝いすること」が看取り士の仕事だと知る。
5年後、早期退職後セカンドライフの仕事として看取り士を選んだ柴の姿は、岡山県高梁市にあった。地元の唯一の病院・清
原診療所の清原医師(斉藤暁)と連携しながら、小さな看取りステーション「あかね雲」でボランティアのスタッフたちと最期の時
を迎える患者さんたちを温かく支えている。そんなある日、新任の医者・早川奏太(高崎翔太)、23才の新人看取り士・高村みのり
(村上穂乃佳)が備中高梁に着任してくる。
みのりは、9歳の時に母を亡くしたという経験からこの職業を選ぶが、まだまだ経験が浅く、緊張しながら最初の患者さん
を柴と共に担当する。最初の患者さんは、「もう病院に戻りたくない」という希望を持つ83才の清水キヨ(大方緋紗子)。息子
の洋一(仁科貴)は、嫁・千春(みかん)が義母の面倒を見ないということで、柴たちへ依頼をしてきた。日々弱っていくキヨに寄り
添う洋一、そして柴とみのり。キヨの最期、柴は洋一を促し母の背中を支えさせる。「母ちゃん・・・有難う」。みのりは見守ること
しかできなかった。
みのりは、腎機能が低下して別の病院に転院しなければならないという東條勝治(石濱朗)を初めてひとりで担当すること
になる。息子は東京で仕事をしているので看護できないが、勝治は「家に帰りたい」と訴えていた。みのりは日々懸命にケアをし、
心を通い合わせるが、ある日クスリの量を間違ってしまい、勝治は眠れないままベッドから落ちてしまう。自信をなくしてしまうみのり
に、柴は「ただ黙って聞いて。そして優しく触れて気持ちを受け止めるんだよ。」とアドバイスをする。勝治の最期、東京から駆け付けた
息子は「父さん・・・父さんの子供で良かったと思ってるよ。」と父に語り掛ける。それは、みのりが初めて看取り士として命のバトン
を渡せた瞬間でもあった。
乳がんの再発と肺への転移で清原病院に入院している山本良子(櫻井淳子)は、3人の子供を持つ母親である。余命いくばく
もない彼女の希望もやはり、自宅に帰ることだった。夫・幸平(藤重正孝)は、子供3人の面倒を見ながら、妻・良子を献身的に看護
していたが、子育てと看護の大変さから柴たちへ相談をしてきた。柴の指導の元、みのりが山本家の最期と向き合う日々が始まる。
1964年、兵庫県芦屋市生まれ。1993年に公開された『She’s Rain』で劇場映画の監督デビュー。その後は『能登の花ヨメ』(2008)、『劇場版 神戸在住』(2015)の監督を務め、その他TVのCM制作も手掛けている。今回、自身の映画4作目にあたる『ママ、ごはんまだ?』が北米初上映にして、トロント国際映画祭で上映された。プロモーションビデオ、CM、短編映画を多数手掛ける。
高崎翔太 斉藤暁 つみきみほ 宇梶剛士 杉本有美 松永渚 大地泰仁 白石糸
大方斐紗子 仁科貴 みかん 堀田眞三 片桐夕子 石濱朗 西澤仁太 金山一彦 藤重政孝 櫻井淳子
製作プロダクション:アイエス・フィールド/原案:柴田久美子/企画:柴田久美子 榎木孝明 嶋田豪
統括プロデューサー:嶋田豪プロデューサー:高瀬博行/撮影:藍河兼一/照明:鈴村真琴/録音:西岡正巳/音楽:妹尾武
“看取り士”という言葉を初めて聞いたのは、十余年前に日本海の某小島で出会った柴田久美 子さんの口からでした。柴田さんが島の老人達の最期を幸せな気持ちにさせてあげて看取る 話に感銘を受け、いつか映画にする約束をしました。そして今その約束を果たせました。 魂はこの世に生まれた瞬間から、肉体を持って感情を学びながら人として成長して生きます。そして様々な体験を経てやがて来る死は、肉体との別れであると同時に人から魂への回帰です。そうやって私達は大きな時間軸の中で輪廻転生をしています。 “看取り士”は生から死への命の引き継ぎのサポーターです。謂わば終着点ではない通過点としての死を、次の次元へと橋渡しをする役であると言えます。死の本当の意味を理解した時、人は死を恐れなくなります。あの島で見た老人達の屈託のない笑顔の訳が、今にして良く分かります。 私達の意識は今大きな変革を遂げる時代になり、“看取り士”の存在は益々求められるようになるでしょう。私も笑顔で「ありがとう」と言って逝ける人生を目指したいと思っています。