看取り士日記(304)~不安を愛にかえて~
若葉が目に眩しくキラキラと輝く頃、新しい相談をうける事になった。
担当医から余命宣告を受けて、お母様が望まれていた自宅での旅立ちに向けてご家族様は動き始めたので、サポートして欲しいとの事。
自宅に連れて帰ろうと決意はしたものの、旅立たれる方を連れて帰るという大事に加えて、様々な処置を実行するということに多くの不安があったのだろう。初めて施設に伺った際には、私たちの存在に安堵された様子だった。
2回目の訪問は、介護タクシーで戻られたご自宅へ。お母様84才は緊張感の取れた優しい表情だった。早速ご家族は、施設の看護師から教わった胃ろうからの栄養と水分補給、そして、痰の吸引を実践されていた。
ベッドは居間の真ん中におかれ、家族の動きや、会話、食事をする風景が感じ取ってもらえる。お母様が望まれていた時間がそこにはあった。
認知症の進んだお父様も同時に外泊をし、お母様を囲む。ベッドで一緒に横になりながら過ごす時間も設けた。1週間の外泊を終えて、一旦施設に戻る。2回目の外泊のあと、ご自宅で看取る意志をご家族はさらに固めて、施設に戻る事を止める事にした。
新しい週を迎える日の朝方のこと、長男さんが寄り添っていたところに、お父様がふと起きていらっしゃって一緒に寄り添う事に。二人の会話を聞きながらお母様は静かに息を引き取った。
「こんなに優しい表情は初めてみました」
お母様が旅立たれた後、息子さんはそのようにおっしゃった。
それから、「なにも心配する事は無かったと気付きました。まさに生き様は死に様。母は元気なころ、多くの方に手を差し伸べていました。今回、戸惑う家族に多くのサポートが得られたのは、母がしてきたことが巡り巡って帰ってきたということ。母の生き様の証だったのだと確信し、安心して委ねていれば良かったと気付きました。」
旅立つ方はその場をプロデュースする力を持っている。寄り添う者はただただ最期は旅立たれる方に委ねていれば、何も心配ないのだとまた体感する。お母様の生き様に、そして多くの学びと愛を頂けたことに感謝、合掌
担当看取り士 清水 直美
文責 柴田久美子