看取り士日記(315)~ドライアイスは入れないで!~
シャクナゲの花が美しく咲き、例年になく暖かい日の朝、本部より派遣要請の電話が入った。
既に、お母様(信子さん82才)をご自宅で看取られていた、娘様からの御依頼だった。看取りのお作法を伝えて欲しいとの事。
到着すると、信子さんのご主人様、娘様お二人、そのご主人様、子供様が居られ、お母様はベッドの上に、とても安らかなお顔をされて眠っておられた。(お亡くなりになられてから32時間が経過していた)
矢継ぎ早に娘様が「ドライアイスは、まだ入れたくないです。柩は準備し、明日、到着予定で、お葬式は葬儀屋に任せるのではなく、できるだけ、自分達が手作りで行いたい。そういう葬儀屋さんを紹介して欲しい」等々、聞いてこられる。
一呼吸入れ、ゆっくりと「大丈夫ですよ。ひとつずつ解決して行きましょう」と伝え、依頼できる葬儀屋を御紹介する。そして、次々となさる御質問にお答えする。その後、ご依頼されてこられた長女様から順番に、看取りのお作法をしていただくこととなった。
お母様を膝枕で抱きしめながら「母とは、亡くなってから随分、話をしてきました。本人は頑張ってしんどかっただろうに、それを汲んでやれず、『頑張れ、頑張れ』と言い続けました。亡くなる時も苦しんで逝ったね。今も苦しんでいない?もう少し、優しくすれば良かったね」等々、後悔の念を涙ながらに、ひしひしと伝えられる。
しっかり傾聴した後、「今言われた言葉は、全て、お母様の耳に届いています。そして、娘様の愛を全て受け取られ、本当に幸せな気持ちで、旅立たれます」とお伝えすると、言葉にならない言葉で「お母さん、大丈夫だよ……お母さん、大丈夫だよ……(お母様があちらで不安がないようにと想いを込めて)」何度も言葉を重ねられた。
娘様が静かにお母様を包まれ、ゆっくりと時間が過ぎて行った。その後、次女様にもお伝えし、みな様に抱いて頂く。
臨終後七日間、共にお母様との日常の暮らしを過ごされた。御家族の皆様の穏やかで深い愛を教えられた。
初めての看取り士派遣という経験の中、私を支えてくださったのは御家族の皆様だった。いままで眠っていた、慈愛の世界を経験させていただけたことに感謝 合掌
担当看取り士 森長淑子
文責 柴田久美子