看取り士日記(320)~生ききること、本当のつよさとは~
9月に入り残暑の中、優美なコスモスから秋の気配を感じる頃。
提携している訪問看護ステーションより「おひとり暮らしの方を支援してほしい」と連絡が入り訪問。敬二さん(83歳)。今年4月に肺がんステージⅣと診断。
契約説明時、「死ぬのか」とポツリと話された時「安心してください。私たちがお支えいたします」とお伝えする。
長年貯めていた100円、50円、5円玉「このお金で契約が出来るならお願いしたい、数えてください」とおっしゃったのは訪問してから5時間程経ったころ。数え終わった時には、敬二さんは満面の笑みで手をたたかれ皆で喜び合った。
「久しぶりに笑った」と後から出てきた日記に記されていた。契約のその日から「夜が不安だから付き添って欲しい」とご希望があり、私の夜間付き添いが開始となる。翌日から無償ボランティアエンゼルチームの訪問を開始した。午前中は訪問看護、午後はエンゼルチーム、夜間は看取り士と連携して支える。
4 日目の夜のこと「もうあかん」と私の腕にしがみつかれる。背中をさすりながら「お迎えの方はいらっしゃっていますか」と尋ねると、小さく頷かれるので「もう頑張らなくてもいいですよ、思い通りになりますよ」と伝えるとまた小さく頷かれ、ささやく様に「お母ちゃん」とおっしゃられた。
旅立ち前夜、看護師さんの夜間訪問時「今してほしいことはありますか」の質問に、渾身の力を込めて「キュッキュッキュ人形」とおっしゃる。看護師さんが夜中に探して敬二さんの手に渡されると嬉しそうに手に収められ、言葉の代わりのキュッキュッキュッキュ「おやすみ」と4 回鳴らされた。最期に欲しかった物は私たちに心を伝えるための物。翌日の朝、窓越しの光の中で空を見つめる敬二さんは、光に溶け込み神々しくまさに神仏となられていらっしゃる。清く美しいエネルギーの中で神聖な世界。
契約後6日目のこと。弟、妹様ご夫婦と、親友の方がベッドを囲まれ、妹様に看取りの作法で抱きしめていただく中、肩で大きく4回息をされ、旅立たれる。
弟様は抱きしめながら、涙が流れそうになるのを何度もグッとこらえられるご様子にお二人の深い絆を感じる。「願いが叶ってよかった。幸せだったね」とおっしゃる弟嫁様にも抱きしめていただく。
抱きしめられた敬二さんは本当に穏やかなお顔、大好きなおかあちゃんと一緒にいらっしゃるのだろう。生ききることの尊さと尊厳を守る本当のつよさを教えてくださった敬二さんに感謝 合掌
担当看取り士 白瀧貴美子
文責 柴田久美子