看取り士日記(321)~臨終後の看取りの作法~
山々の木々が秋深く色づく季節。「今、病院に着きました。リカバリールームにいます。来て下さいますか」と娘様からお電話が入る。
臨終後のお父様のベッドをはさんで、奥様と娘様が呆然と座っておられる。「間に合っています。どうぞお父様を抱かれて下さい」と皆様にお伝えする。
娘様が膝枕をされると、涙がぽろぽろと頬を伝う。「お父さん、ありがとう」、「お母さん、お父さん働き者だったね。働き続けて支えてくれたね。色んなところに連れて行ってくれたね」と、たくさんの思い出があふれ出して尽きないご様子。
その横で、奥様は膝枕されているご主人様の頬を両手で包み、胸をなで、ご主人様を身体ごと受け取っておられるご様子。ご夫婦の深い愛のお姿。
お孫さんもおじいちゃんを抱いて下さる。「200回くらい、お寿司食べに行ったよ」と話しながら。高校生のお兄ちゃんは「重いよ。大丈夫?」と、小学生の弟にも膝枕を代わられる。その後、お孫さんからクイズが飛び出して和やかなひととき。
看護師さんがお身体を綺麗にされる間も、娘様がご一緒され、お父様へのあたたかい声かけに優しさがあふれる。
新幹線で到着された長女様も、お父様を抱いて下さる。抱きながら、お父様の大切にされた暮らし、心を注がれた家族へのお父様の深い愛を涙しながらお話される。悲しみではなく、お父様への感謝と思いやりがあふれている。
もう一度、次女様がお父様を、抱え込むようにやさしく慈しみながら抱いて下さる。「お父さん、ありがとう」「お父さん、良かったね」
リカバリールームは、お父様の愛と優しさに包まれる。お世話頂いた先生や看護師さんもお部屋に来て下さり「お父さん、どんどん笑顔になられますね。もう目尻が下がってる」とお声がけくださる。そこには、関わって下さった皆様のやさしさが溢れている。
じっとそばに居ること。その大切さと素晴らしさを教えて下さったご利用者様に感謝 合掌
担当看取り士 西河美智子
文責 柴田久美子