看取り士日記(327)~お父様からの「ありがとう」の言葉~
バラの花の美しい頃、ご相談の電話を頂く。
奈良市に二人で暮らす80代のご両親を案じて、山梨県にお住まいの次女様からだった。早速訪問。まだ、看取りの段階ではないが、看取り士派遣サービスの桜の契約を頂く。
その後、誤嚥性肺炎で入院、どんどんとレベルが低下。ついに鼻腔栄養のチューブを付けられる。病院からは、療養型の施設をすすめられる。しかし、コロナ禍で病院も、施設もほとんど面会もできない。
しばらくして、お父様は、鼻腔チューブを抜いて、ご自宅へ戻られる。お家に戻られたお父様は「(家に連れて帰ってくれて)ありがとう」と次女様に言われる。
点滴もない。お父様の肌艶は良い。発話は少ないが、しっかり反応。ドクターは余命2週間から1ヶ月とのこと。無償ボランティアエンゼルチームをご希望。
23時50分、呼吸が変わったと電話が入り、かけつける。不安の中におられたご家族は、看取り士さんが来てくれたと安堵の表情。お父様は、まさに肉体を手放そうとしておられ虫の息。すぐに看取りの作法を次女様にしていただく。10分も経たないうちに安らかに旅立たれる。
私が駆けつけた時に声をかけた時は、首をふっておられたが、奥様に「お抱きになりますか?」と再度、お声かけをすると今度はうなずかれる。両手でお父様のお顔を大切そうに触れられて、「お父さん、あなたのおかげでいい人生でした。ありがとう」と話される。すると、お父様の開いていたお口がだんだんと閉じてきて、最高の笑顔になっていかれた。
ドライアイスは3日間入れず、皆様にゆっくりと触れていただき、温かさ、そして冷たさをも受け取っていただく。お父様は6日間をご自宅でお過ごしになった。
看取り士は本当にもう一人の家族であることを実感させていただく。
そんな尊い場面を創ってくださったお父様、そしてご家族に感謝 合掌
担当看取り士 乗本奈穂美
文責 柴田久美子