看取り士日記(329)~希望を叶える熱意~
あじさいの花が美しい頃だった。
お父様の余命宣告を受け、戸惑いを隠せない娘様からお電話を頂く。
3年半前に見つかった胃がんの手術後、抗がん剤治療を選択せず、毎日を穏やかに過ごされていたお父様。ご本人が望まれたご家族との穏やかな暮らしは、激しい腹痛によって変化を迎えた。
主治医から腹部に広がった癌と肺炎の転移を告げられ、余命宣告を受けられる。同時に、すぐにホスピスを探しはじめるようにとも言われた。
お父様の希望を叶えるべく、ご家族はご自宅でのお看取りを選択。私どもにご依頼を頂く。
自宅での看取りに難色を示したのは、緊急入院先の担当医だった。ご家族の大変さも考慮し、あまりお勧めはしないと言われていた。しかし、お父様の希望を叶えたいという娘さんの熱意と行動力に動かされ、次第にご自宅へ帰る方向へ話が進んでいく。
お父様が自宅に帰られたのは、相談を受けてから約3週間後。便の出口を作る手術を受けて自宅に戻られてから、少量ながらお食事を取られ、ご自身で歩くこともできていた。しかし、旅立ちの3日前、とうとう水分も口にされなくなる。旅立ちが近づいてきたことを肌で感じ取られたご家族様は、お父様と片時も離れず過ごされる。
そしてお父様はお母様が添い寝をしている朝方に、静かに息を引き取られた。苦しませたくないと心配していたご家族様は、安堵感と、静かに旅立たれたお父様の優しさを、身体で受け止めた。
膝枕をしながら「私も幸せでした。お父さん、ありがとう」額を撫でながらのお母様のお言葉に、お父様の表情が笑顔になった。
家族に愛を注いで来られたお父様が迎えられた幸せな最期に立ち合わせて頂いたことに感謝 合掌
担当看取り士 清水直美
文責 柴田久美子