看取り士日記(337)~「家の雑音が好きだから」の願いを叶えて~
看取り士日記(337)~「家の雑音が好きだから」の願いを叶えて~
山茶花が赤い花をつける頃だった。
一本のお電話をいただいた。お母様の思いを確認せずの入院となっていたことに気づかれ、家族で話し合われた。お孫様がおばあちゃんから「賑やかなのが好きだから賑やかにしてほしい。家の雑音が好きやから家に居たい。」と聞いておられた。娘様はすぐに、退院して自宅で看取ってあげたいと明るい声でお電話をくださった。
お電話から5日目には退院となった。退院の時、お母様はとても嬉しそうに目をきらきらさせて、お部屋を見まわし、自宅に帰った喜びを笑顔で表現されていた。お世話になった先生や看護師の方に何度もお辞儀をしてお礼された。
車からベッドまでは、息子様のお姫様抱っこで、お部屋には、娘様やお孫様。ひ孫様は、7歳、4歳、10か月でじゃれあって遊んでおられる。そしてこれからお世話になる医療や介護の方々も来てくださり、お部屋はいっぱいになった。
皆が集まり、今後の希望のお話をする時間は、とても賑やかな喜びに包まれる。4歳のひ孫様は、「おばあちゃん、マッサージしてあげる」とお布団をめくり、小さな手でおばあちゃんの足を包んでいる。10か月のひ孫様は、お布団の上でキャッキャッとはしゃぎ這い這いしている。
その夜は、娘様とお孫様がご一緒に過ごされた。その朝、お孫様に手を握られて穏やかに旅立たれた。娘様は何度も「家に帰れてよかった。声を掛けたら起き上がってくるみたい。こんなに穏やかなんて。」「お母さん、ありがとう」と長い時間、お母様を抱かれ、肩や胸や頬にふれて「あったかい、本当にあったかい。首の後ろが一番あったかい。」と暖房を消されても熱く、お母様のお布団の中は、こたつのように温かく訪れる方々を驚かせた。
息子様もお母様に看取りの作法をされ、「ありがとう。」とやさしく抱いてくださった。
普段の雑音が幸せと暮らしの中の看取りのあたたかさを教えてくださった幸齢者様に感謝 合掌
担当看取り士 西河美智子
文責 柴田久美子