看取り士日記(343) ~看取りは愛~
ゴールデンウイークの頃、看取り士さんのことを知りたいと息子様からお電話をいただく。
約束の訪問の日、お母様は高熱をだされ、往診医と同じ時間帯での訪問となった。医師から「かなりの脱水状態ですが、点滴はお母様には負担があるのでできません。この状態だと入院レベルではありますがどうされますか?」とご家族に判断を仰がれた。ご長男様は、「容体が良くなるのなら入院してもいいが、特に変わらないなら母は家に居たいと思うので・・」と自宅で様子をみることになった。
医師が帰られたあと、ご兄弟様から、「自分たちが何かできることはありませんか?」と尋ねられた。「他にご家族はいますか?」と尋ねると、次男様が「3歳の娘と妻がいます。今日は母の具合が悪いので一人で来ました。」と仰られた。
「それなら、時間が許す限り、お母様に会いに来てあげてください。体調が悪いからと遠慮しなくて大丈夫なので娘さんも一緒に遊びに来て、いつも通りの暮らしをなさってください。」とお伝えした。
御家族との楽しい時を過ごされた日の夕方、「今気がついたら息をしていないみたいなんです。どうしたらいいですか?」とご長男様から慌てた様子でお電話を頂く。
ご自宅に着くと、ご長男様から「母がいつ息を引き取ったのかわからないんです。僕たちは誰も最期に立ち会うことができませんでした。」そう涙ぐまれた。「お母様はご家族皆様に囲まれて、お孫さんの遊ぶ姿も見ることもでき、息子さんたちの会話も聞きながら、とても幸せで安心されて、このときを選ばれて旅立っていかれたのです。皆さん全員が立ち会っていただけたんです。」と伝える。
看取りの作法をお伝えして、ご長男様からベッドに上がってお母様を抱いて頂き、次に次男様にも抱いて頂き、命のバトンを受け取っていただいた。お父様も少し照れながら、でもまだ少し緊張しながら、看取りの作法で奥様を抱いてくださり、ご家族の思い出話に花が咲いた。
生きているとき、どんなにその人とのわだかまりがあったとしても、抱いて看取れば愛いっぱいに満たされる。「看取りは愛」そのものなんだと学ばせて頂いた。
ご縁に心より感謝 合掌
担当看取り士 稲熊 礼乃
文責 柴田久美子