看取り士日記(345) ~主治医に抱かれて~
暑さが続く夏の日だった。
娘様より「母が施設で熱中症にかかり2か月前より入院中です。感染症からの肺炎で医師から、今日か明日が山場でしょう…」と告げられたとご相談をいただいた。突然のことに戸惑う娘様から「母の命のバトンをちゃんと受け取りたい…看取りの作法で送ってあげたい…」等々、不安な気持ちをお聞きした。
病院ではコロナが再び広まっていて面会制限15分という制限の中、共に祈りながらの時間。
ご相談の連絡から次の日の夜、「お母様の脈がおちてきている…」と連絡をいただき、すぐに病院へ向かった。娘様が病院に着いたその時に、娘様の到着をまっていたかのように旅立たれた。
「お母様を抱いて家に連れて帰りませんか?」とお伝えすると娘様はためらいながらも、「自分達で母を家に連れて帰りたい」と病院側へ伝えた。主治医が自ら、お母様を抱きかかえて車まで搬送をお手伝いしてくださり、今度は娘様の旦那様が、抱きかかえて、ご家族で力をあわせて念願の帰宅。
ご長男様から順番にお母様を膝枕で抱いて頂いた。言葉は少なくとも、愛おしそうに見つめながら「口が…とじたよ。不思議だね。」と口々にするご家族。病院では閉じなかった口が自然と閉じているお顔をみて「家に帰ってきてよかったんだね…」と安心感に包まれた。
お母様の背中に手をいれたり触れたりしていただくと「手が真っ赤…」と驚く娘様。「これがお母様の魂のエネルギーです」と伝えた。お母様のお顔はどんどんと、穏やかで笑っているような優しいお顔に変わった。家の中は、深夜でもあたたかな空間に包まれて朝になるまでお母様との時間を過ごした。
葬儀社さんを呼ぶのも、葬儀日程もゆっくりゆっくり。次の日はお孫さん達にも膝枕で抱いていただき、ドライアイスは3日間のせずに、お母様の大好きなアロマの香りに包まれて思う存分、触れて抱いて話しかけ、笑ったり泣いたり温かい時間をお過ごしになった。娘様は、「作法をしたことで、母とのわだかまりが自然ととけていった…」と清々しい笑顔。娘様の中に再誕生したお母様はこれからも共に生きていかれる。
生まれた時、抱きしめてくれたお母様を、最後はみんなで抱きしめて看取ることの温かさ豊かさを教えてくださったお母様に感謝 合掌
担当看取り士 山口 朋子
文責 柴田久美子