看取り士日記(353) ~呼吸あわせの奇跡~

看取り士日記(353) ~呼吸あわせの奇跡~

2024年08月14日(水)6:56 PM

 

寒さが厳しい2月のころ。

お父様(96歳)の在宅介護中の娘様より、在宅サポートの相談をいただいた。ところが、次の日、肺炎で入院となるが容態も回復し1か月で退院となった。家に帰れた喜びと、これからの介護の不安の中、在宅生活が始まった。

 

退院からわずか3日目、訪問看護師さんから「いつ何があってもおかしくない、明日があるかどうか」と、看取りの方向へと状況が変わった。

深夜12時すぎ、呼吸が止まったり、動いたり。看護師さんを呼ばれ「もう、あとわずかでは…」と。そんな状況の中、娘様より、涙まじりの連絡をいただいた。深夜お家に伺うと、今にも止まりそうな呼吸のお父様と不安そうに寄り添うご姉妹。すぐそばにいき、少しずつお父様に呼吸あわせを始めた。退院からずっと気を張っていた娘様の疲れもピークに。途中から看取りの作法での体制をとり、やさしく体に触れながらの呼吸あわせ。やり方をみていた娘様達も「自分達もやってみる!」と。膝枕でお父様を抱きしめ息をあわせていく。自然と語りはじめ「お父さん、ありがとね…こんな近くで顔みたことあったかな?自分の胎内にいるみたい…」と愛おしそうに見つめられた。次は「私だよー」と次女様が抱きかかえ想いを語りかけられた。段々と一体感と安心感が生まれ、お父様の表情も穏やかに変わった。まるで「まだまだ娘達と一緒にいたい」と言うように一呼吸を繋ぐお父様。部屋中に娘様達への愛が広がっているかのような温かな空間。危篤から呼吸あわせを続け8時間。気がつけば外は、明るくなっていた。途切れ途切れの呼吸から、呼吸が安定していくお父様にびっくりされるご姉妹。

 

朝、再び訪問にきた看護師さん。「こんなことあるんですね」と不思議がられた。「点滴、酸素は、されますか?」の言葉に、お父様の生ききろうとする姿を見てきた娘様は「何もしないで、自然のままで」と、はっきりと、伝えられた。

その後もお父様の一呼吸は続き、会いたかったお孫様、皆に会い頷かれたり娘様が書かれた胎内研修のお手紙を読まれ、そっと涙を流された。28時間たち次の日の朝、娘様達に見守られ静かに目を閉じられた。再び、看取りの作法をし、「今まで経験したことがない父の大きな愛のエネルギーを受け取れこんなに幸せなことはない。」と娘様。最期の28時間は、お父様から娘様達へのギフトの時間。

住み慣れた家での看取り。そこには、たくさんの見えない奇跡があふれていた。娘様達を想う深い親の愛を教えて下さったお父様に感謝 合掌

担当看取り士 山口 朋子 
文責 柴田久美子

 

 

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