看取り士日記(314)~おひとりさまの夢の自宅死~
梅が咲き、春の訪れを感じながらも冷たさの残る頃だった。
一人暮らしの叔父を案じた姪の恵さんのご依頼で、お一人暮らしの叔父(勇さん)の看取りをお願いしたいと12月より毎月1回の訪問を開始。
1回目の訪問、チャイムを押すと「どうぞ上がってきて~」と若々しい声が聞こえる。とても気さくに話される 勇さん。「若いころは人のことで走り回ったもんよ。今は一人やし、身体が思うように動けんから助けてもらわんといかんけど、元気になったら恩返し必ずするからね」と話される。
認知症があっても、一人暮らしでも、寝たきりでも、だんだんと食べられなくなっても、「ここ(自宅)がいい。ここにいたい」という希望は、最期まで叶えられた。
月1度の訪問を終えて帰りの挨拶をすると、勇さんはいつも手を振り「ありがとう。次また来てくれる?」と柔らかい眼差しで声をかけてくださる。
お身内さん、ご近所さん、地域の公的機関の方々の連携により、1日数回の訪問があり、勇さんの「寂しい」「一人の時間が長く感じる」という気持ちを皆が汲み、朝のヘルパーさん、午後からのお弁当配達、訪看さんの訪問が順繰りに入る毎日。私たちも在宅チームの一員に加わった。
ご本人の希望により週1回の訪問日、空がどんよりと曇る2月の末。「今日は目が見えにくい」と話され、ぽつりと「お母さん」と。「また来ますね」と話し、帰りの挨拶をして帰る。
数時間経って、姪御さんより「訪看さんから亡くなられたと連絡が来たが、私はすぐに間に合わない」と連絡を受ける。すぐに駆けつけると、訪看さんとヘルパーさんで体を拭き、パジャマから勇さんお気に入りの洋服に着替えられていた。
長年にわたりお世話をされてきた姪御さんを待つかのように、勇さんの体はとても暖かい。間もなく、姪御さんやご兄弟が駆けつけてこられ、姪御さんが勇さんを腰に抱えて抱きしめられる。すると、到着を待っていたかのように勇さんのお顔が和らぐ。
自らの身体を差し出し、新人看取り士の私に命を手渡すことの意味を惜しみなく教えてくださった幸齢者様に感謝 合掌
担当看取り士 上田博美
文責 柴田久美子