看取り士日記(351) ~チャンバラごっこに愛を~
大盛会にて幕を閉じた『150万都市プロジェクトin埼玉』直後から、奇跡は次々と起こった。その内の一つがお看取りのご依頼だった。
「膵臓癌で余命宣告された父が、入院先の病院で息を引き取った後、自宅に連れ帰るので契約をお願いします」と、ご依頼主の娘様。
25時ご逝去とのご連絡あり、私は午前3時に自宅を出た。朝5時に電車で来られるご依頼主の娘様は到着していらっしゃらず、奥様とご長男様に「看取り士の石川です」とご挨拶させていただくも、残念ながら100%アウェイな状況の中、ご本人様にご挨拶させていただいた。
シャントを抜いた傷口で右の首元が血液で真っ赤に。止血の技術を持つ葬儀社スタッフさんは居合わせなかったとの事で直ぐにタオルを数枚ご用意いただき押さえさせて頂く。
「痛かったですね。もう楽になられましたね。おうちに帰れて良かったですね」…などなどしきりにお話かけているとお母様がお隣に座られ、ボソボソとご主人様のことを話し始められた。
「御主人様の生前に魂に積み重ねられたエネルギーを受け取る時間が必要です。それがこの時間」…とプラスの死生観に涙された奥様だった。
そして娘様が到着され、看取りの作法を。
お母様が交代された頃、娘様のご家族ご到着。ご主人様と2人の男のお子様が洗面所で手を洗っていらっしゃる間に、私は急いで血に染まった枕カバーをタオルに交換した。お子様方に決して、大好きなおじいちゃまの死を怖がらせない為に。最期のイメージに血液を焼き付けさせたくなかった。
4年生のご長男様、まだおむつのご次男様の元気過ぎるご登場に、現場の空気は打って変わった。じっとしていないのが男の子。おもちゃのバットで始まるチャンバラごっこにお父様、「やめなさい」と叱られて。「大丈夫ですよ。普段の生活をされてください。おじいちゃま、その方が嬉しいですよ!ほら、こんなに笑っていらっしゃる」と私は言葉を挟んだ。
入室時、看取り士と言った私に「別に頼んでないけど」とぼそっと仰ったご長男様が最後は笑顔で深く頭を下げられ、この私に感謝のお言葉をくださった。全ては旅立つご本人様のプロデュース。私をお使い頂いた事に感謝 合掌
担当看取り士 石川圭子
文責 柴田久美子
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