看取り士日記(286)~命に向き合う~
寒風の中、椿の花が凛と咲き、潔く生きよと教える。
旅立ちの10日前、一人暮らしのアパートで和夫さん(66歳)は倒れていた。すぐに救急車で搬送、緊急入院。看取り士の派遣依頼を受ける。救急外来で告げられた医師からの言葉は、余命数日という残酷な宣言だった。
「自分が傍に寄り添ってあげたい。でも介護が必要な家族がいるから、自分の代わりにできるだけ看取り士さんに傍に寄り添って欲しい。そして、安らかに死を受け入れられるように、働きかけて欲しい」と、妹様からの依頼だった。
和夫さんはご自身の体調が良くならない不安、病院側の対応への不満などを訴えていた。しかし、日が経つにつれ、ご自身の肉体の限界を受け止めざるを得ず、傍に寄り添う私やエンゼルチームの皆様に、徐々にご自身の気持ちを打ち明けてくださる。
10日が過ぎた朝、妹様から急変したとの知らせを受けて病室に向う。声がけをすると、ぎゅーっと強く手を握り返して下さる。呼吸は明らかに変化を見せ、旅立ちが近いことを示していた。
妹様は膝枕をして、和夫さんを抱かれ、頭をやさしく撫でられる。
「頑張ったね。よく頑張った。思い通りの人生だったよね。最期の最期まで自分らしいね」
妹様の膝にしばらく抱かれ、穏やかな時間が流れた。無言で語り合うお二人の姿は、ひとつになり永遠のものに見えた。
妹様が病室を出られてから1時間後。呼吸がさらに変化し、心電図では脈が乱れ、反応がなくなった。妹様に電話をし、受話器を耳元に置いて、最期の最期まで和夫さんに声をかけてもらう。
「大丈夫だよ。安心して。お父さんにもお母さんにも迎えに来てもらうように頼んだから。よく頑張ったね。ありがとう。もういいよ」
その声はしっかり届いていた。
心電図ではもう0という数字が表示されていたが、両手をすーっと挙げて、ガッツポーズの動きと、子供のような笑顔を最期に見せて下さる。あとから駆けつけた弟様にも、しっかり腕に抱いて頂く。
最期の最期まで自分らしく生ききった和夫さん。そして最期まで一緒に命に向き合い、ただただ愛を届ける姿勢を学ばせて頂いた皆様に感謝 合掌
担当看取り士 清水直美