看取り士日記(285)~いのち喜んで~

看取り士日記(285)~いのち喜んで~

2018年12月25日(火)8:00 AM

 紅色のもみじが美しい季節だった。
 4ヶ月前「もう母のいない自宅は一人で寂しすぎるらしく帰りたがらないんです」とお父様の転院先を悩んでいらした娘さん。最後の場所と決めた病院から「2、3日が山です。と言われました」と依頼が入る。
3:00
「エ.ラ.イ」とナースコールをご自分で押し訴えられている。肺の疾患で酸素はもう10リットル超えても入らない。夕べから38℃の熱発。身体が生きようとしている。抗生物質の点滴と氷枕を用意してくれたけれど、またナースコールをご自分で押し首を横に振って、これはいらない、嫌なのだとお伝えになる。
4:30
「もう医療的にできることはなく、鎮静剤を使うと眠ってしまって呼吸が止まるかもしれませんがどうされますか」と言われ、自分では決められないと電話が入る。
「お父様がどうされたいか。そして一緒に呼吸を合わせて」とお伝えする。
 お父様は、やはり鎮静剤はいらないとご自分でいることを選ばれる。
 2年前、お母様を送られた時は後悔ばかりだったとおっしゃる娘さん。2ヶ月前に3人目のお子様を出産。呼吸合わせは必ずできると信じて委ねる。
 手を握り、もうクタクタだから自然に頭と顔がベッドに置かれ、目と目があう姿勢になっていた。一緒に呼吸を始め10分。うとうとされた時おふたりは一体になられた。
 今までとは違う大きな最期の息を吸い……時が止まる。

 ご自宅に戻られた時に「あー!楽しかった」と言う娘さんの言葉。
 これからの娘さんご家族と、そして、ただそばにいただけのわたくし自身も護ってくださるやさしさに感動する。お父様の穏やかになったお顔とお母様の遺影写真、娘さんの腕のなかでやっとおっぱいをもらえた赤ちゃんの全てがキラキラと美しい。
 いのち喜んで。
 凛と生きる姿勢を、そして命をバトンすることを教えて下さったお二人に 感謝 合掌

担当看取り士 岡亜佐子



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