看取り士日記(358) ~おじいちゃん、ありがとう~
少しずつ秋の気配を感じる9月の中頃、看護師でもある娘様から「認知症で入院
中の父親が嚥下障害で食事ができずターミナル的な状況です。」と相談を頂く。「父の最期は病院ではなく家に帰してあげたい…ただ在宅での看取り経験のない家族は不安でいっぱい。看取り士さんにサポートしてもらい、命のバトンを受け取る体験を家族にもさせたい」とご依頼を頂く。
病院から在宅への手筈を整えられ3年ぶりに我が家に帰られたお父様。病院では頑なに曲げていた両腕の拘縮も自宅へ戻られると自然と手がほどけていく様子に驚かれた娘様。そんなお父様の変化に「家に連れてきて本当によかった」と皆で話された。
初回訪問に伺うと、昔行ったお遍路さんのお札や自分で描いた掛け軸など、お父様の生きてきた証がいっぱいの部屋で、発語はできなくともリラックスされている表情。訪問看護、入浴の方々も関わり1日1日を大切に過ごされた。
訪問から2日後の夜、娘様より「父の呼吸が止まってます。」と連絡を頂く。
かけつけるとドクターの診断も終わり、眠っているかのようなお父様。お話を伺い「お父さんビールが好きだったのでは?」との以前の話から最期にビールを口に含ませてあげた娘様。それからまもなくして呼吸が止まっていた。もっと早くあげてたらよかったけれど、これもお父さんらしいね。と
お家に伺ってから5分もすると汗がでてくる程のお父様の熱いエネルギーが広がる中、お父様を囲み順番に作法をして頂く。皆で体に触れて両手を一斉に広げると皆の手が真っ赤になり驚かれるご家族様。これがお父様の魂のエネルギーを受けとること。思い出話をしていくうちに穏やかな空気に変わっていく。深夜23時、遠方のお孫さんが駆けつけてこられ「おじいちゃん…」と涙がとまらない。「背中の下、温かいから、触ってごらん。」とお母様。「本当だ、温かい…」と自然と膝枕で作法をし「おじいちゃん、ありがとう…」と泣きながら慈しむように見つめるお孫様。その後、朝までお孫様、お父様、娘様3人で川の字で眠られた。
3年ぶりに帰られた自宅での看取りは、お父様とご家族様を再び繋ぎなおした家
族の時間。深い家族の絆を教えてくださったお父様に感謝
合掌
担当看取り士 山口 朋子
文責 柴田久美子