看取り士日記(312)~I Can’t Help Loving You All.~

看取り士日記(312)~I Can’t Help Loving You All.~

2021年03月16日(火)4:24 PM

 

(日本語題: みんなを愛さずにはいられない!)

 

玄関先の椿の花が凛と美しいころだった。
肝臓がん末期、大出血のためMさん(92歳)は緊急入院。私は、訪問看護師として3か月前からご支援させていただいていた。

 

入院されて7日目、呼吸状態悪化の連絡が入り、院長の「何ができるか分からないが、行ってあなたができることをしてきなさい!」という言葉に心嬉しく、そして勇気が湧き、入院先に看取り士として伺った。
ご本人の肩に手を当て、心の中で「ご家族に何をお伝えしたいですか?」と伺いながら、緊急入院時に交わした会話を私は思い出した。

「今、どなたに一番側にいて欲しいですか?」の問いに、「それは言えん!」と一言。「皆さん全員が大切という事ですね。」と伝えると、こくりと頷かれた情景が、鮮明に私の心に蘇る。

 

奥様が前日のエピソードを涙ながらにお話ししてくださる。「必死に何かを訴えるのだけれど、分からなくて……」震える手で書いたメモで、唯一“ 帰 ”の文字だけが読み取れ、次男様が「帰りたいのか?」と問うと、両手でパチパチと手を合わせる仕草をされたと。

そのお話を聞いた私は、「ご決断はご家族ですが、私共は今すぐでもエンゼルチームを編成します。自宅では当院で診療いたします。ご家族様は何も心配いりません。」と、きっぱりとお伝えした。

「家に帰ろう!」 ご家族様がご本人様のお気持ちにお応えした瞬間だった。

 

旅立ちは、願われた自宅到着から2時間後のことだった。ご家族様お一人一人に抱きしめて頂いて、命のバトンの受け渡しをしていただく。お孫様が抱きしめている時、奥様が「ジージはこれを望んでいたんだね。」と涙を流される。はしゃいでいたお孫様方も、小さな体で命のバトンを受け取る時、ある瞬間から涙をいっぱいに溜めて頬が紅色に変わり、穏やかな表情になっていく。

それは、一体感を確かに感じられた微笑ましい瞬間。お孫様に抱きしめてもらうたびに、ご本人様の目尻が下がっていかれる。

ご家族様にしっかりと抱きしめていただき、旅立ちから3時間後もまだまだお身体は温かく、そのぬくもりは今も私のこの手に残っている。ご本人様の家族愛の深さと強さが、わたくしの道はこれで良いのだと、背中を押してくださったことに心から感謝 合掌


担当看取り士 内堀敬子
文責 柴田久美子



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