看取り士日記(333)~母は光になりました~
残暑がまだ厳しい初秋のころだった。連絡を受けた翌日には契約と初回訪問となる。このとき余命1~2週間。
89歳になるお母様は、7月に腎不全増悪となるも、以前より「その時が来たらその時」と透析はしない決断をされていた。
娘様はお母様の意思をくみ取り、連夜付き添われていた。
初回訪問時、ベッドに休まれているお母様の手に触れてゆっくりと声をかけることで、しっかりと視線を合わせて、言葉や頷き手振りで意思を伝えられる。その姿を見ていた娘様はびっくりされて、「久しぶりに母の声を聞きました」と。
夜間はお母様おひとりで住み慣れた自宅で休まれる時間となり、ひとりの時間も大切であること、またひとりでの旅立ちがあったとしてもそれはご自身のプロデュースであるから大丈夫です、と娘様に伝えた。
1週間後の2回目訪問時、努力呼吸が続いており、お体は旅立ちの準備に入られていた。
今夜は泊まりますと言われる娘様に、看取りの作法をお伝えし一旦退室した。
翌深夜3時過ぎ「呼吸が止まりそう、あのポーズをしてもいいですか」と連絡を受け、到着した時にはベッド上で膝枕をしていらした。
その光景は、側に居た訪看さんが霞むくらい、光り輝いて映し出されて見え、娘様に抱かれているお母様は笑みを溢されていた。主治医からの確認も膝枕をしたままでしていただき、「母は光になりました。これで自由にどこへでもいけるね」と語りかけられた。
沢山のお母様のエピソードをお話しされる中、「あ~そんな事もあったかしらね」と言わんばかりのお母様の微笑み。夜が明けてお孫様にもしっかりと抱いていただき、また笑みが溢れた。
命のバトンを受け渡す温かな時間を、朝日が昇るまで隣で寄り添わせていただいた。
空間は愛で満たされ、これからは光となって傍におられるお母様とそのご家族に、もうひとりの家族として寄り添わせていただけたことに感謝 合掌
担当看取り士 藤本妙子
文責 柴田久美子