2026年02月09日

「おひとり様みまもりサービス」の利用者I様は、90歳の一人暮らしの女性。
80年前、両親や兄弟とともに広島から中国・吉林省へ渡った、いわゆる「残留孤児」のお一人。
終戦の翌年、父親が亡くなったことを第三者によって知らされる。マイナス30度という極寒の中、栄養失調の末に亡くなったという。
その後、生まれたばかりの弟は、母乳が出なくなった母親に抱かれたまま亡くなった。
兄は朝鮮戦争の戦場へ送られ、行方不明となった。さらに、二人の弟も中国人の里親にもらわれ、二度と会うことはできなかった。
母親が亡くなった時でさえ、I様は「悲しいという気持ちもなく、心が空っぽになって、何も感じなかった」と語られている。当時は、毎日のように誰かが亡くなる時代であり、泣くことも、嘆くこともできない状況だったという。
1970年代、ようやく日本へ帰国することができたI様は、結婚され、安定した生活を送るようになった。しかし結婚後もお子さんを授かることはなかった。現在は、17年前に亡くなられた旦那様が建ててくれた家で、ひっそりと暮らしておられる。
戦争、過労、そして幾度もの喪失―。
それらを背負いながら生きてこられたI様が、いつも微笑みながら「来てくれてありがとう、顔を見ただけで安心した」と、口癖のように言われる。
平和な時代に生まれた私は、戦時下の「死」を本当の意味で理解することはできない。
しかし、少女だったI様の潜在意識の奥深くに、両親や家族の愛に対する渇望が、厚い氷のように封印されているのではないかと感じている。
だからこそ、私の看取りの目標は明確である。
I様が最期を迎えるその時に、「お母さんの温かみ」を感じられる時間をつくること。
そして、I様がいつも口にされる「もう二度とあんな戦争を起こしてはならない」という言葉を、次の世代へ伝えていきたいと決心した。I様のお言葉に感謝、合掌
担当看取り士 下岡郁
文責 柴田久美子

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