看取り士日記(309)~地域のぬくもりのなかで~
稲穂が黄金に色づく頃、ケアマネジャーさんから一本のお電話を頂く。
「ご自宅で親子二人暮らしをされている方のお母様が、お医者様からあと一週間と言われて、不安を抱えておられます。支援して頂けますか」と優しい声が届いた。
ご自宅に伺うと、どうしたらよいのか途方に暮れている息子様のご様子。「お願いします。そばに居て下さい」と息子様の言葉。お母様は、お話をすると目を開けて反応して下さる。食べたいものがあるかお聞きすると首を横に振られる。お困りのことはないかお聞きすると、やさしく微笑まれ首を横に振られる。
毎日の寄り添いボランティア・エンゼルチームを希望され翌日から訪問となる。息子様は、いつも通りに午後のお仕事に出かけられる。
その後、「今夜が山でしょう」と診察を受けて、「今すぐ来てほしい」と連絡を頂く。お母様の手を息子様に触れて頂くと思い出話をして下さる。幼い頃のお買い物や恵比須講を楽しみにしていたことなど話して下さり、息子様はお母様を我が子のようにやさしく見つめられて、時間が流れる。
親戚の方やお世話になったご近所の方も会いに来て下さる。中学生と高校生の子達も手を握って下さり、なかなかその手が離せない。遅いから帰るように言われても「どうせ寝ないから」と傍から離れられない。
ご近所の方が、「ご主人見えたの?」と聞かれると、息子さんと繋いだ手を大きく2度も上に挙げて一緒に居ることを教えて下さる。周りからは、思わず歓声が上がり、喜びが伝わる。
お母様の身体が燃えるように熱くなり、呼吸が変わってきた頃、息子様にお母様を抱いて頂く。するとお母様は満面の笑顔になられ、みんなもその笑顔に誘われる。
「お母さん、支えてくれてありがとう」息子さんの優しい声に包まれる。お母様は、息子様のなかに包まれて、しっかりと息をされ、目を大きく開いて周りを見渡された後、納得したように静かにやさしく目を閉じられる。
優しい笑顔のまま。「よく頑張ったね。ありがとう」と縁のある方々に見守られてご主人のもとへ。お母様も寄り添われた皆様も優しい笑顔のまま。
ご本人の願い、住み慣れたところで最期まで暮らすことは、みんながあたたかく幸せに包まれると教えて下さった幸齢者様に感謝 合掌
担当看取り士 西河美智子
文責 柴田久美子