看取り士日記(310)~幸せな自宅死という選択~
赤い椿の花が冷たい風に揺れる季節。
2020年前半からコロナウイルスが猛威をふるい席巻している中で看取り士へのご依頼が増えた。病院での厳しい面会制限がその原因に有る。せめて愛する人の最期だけでも住み慣れた家で家族の温もりの中で過ごさせたいとの悲痛なご相談に心を傾ける日々。
お母様(80歳)と面会が出来ないので家に返したいと言う娘さんからだった。今年11月に転倒。医師から寝たきりの状態と言われ、これ以上、医療は要らないと言われた。
今はたん吸引を1日に3回、プリンやゼリーを4割。母は「家がいい」とずっと言っていた。数日前にTV電話で家に帰りたい・寿司を食べたいと言っていたが、今日のTV電話では話しかけたが応答もなかった。担当の看護師さんによると、手を握り返すこともないとの事。
愛するお母様のその時にあって、近くに居る事すら出来ない現状の中での苦悩。全国にこうした方々がたくさんいらっしゃる事と容易に想像出来る。直ぐに対応することを御約束し、電話を置く。
12月20日はロサンゼルス映画祭で3冠受賞した映画「みとりし」を全国50カ所で上映をする。看取り士は自宅に帰りたいを支える仕事で有り、この映画「みとりし」が自宅死をテーマにした作品だからこそ、今一人でも多くの方にご鑑賞頂きたい。そんな想いから50カ所での上映会となった。人数制限をし、コロナ対策を十分にした上での開催となった。
コロナ禍だからこそ、あたたかい自宅死をお選び頂き、しっかりと触れあい、抱きしめて看送ることが家族の平安をもたらすことにつながる。
私たち看取り士の夢は全ての人が最期 愛されていると感じて旅立てる社会を創ること。自宅死と言う選択で命が子や孫に受け継がれていることを教えてくれる先人に深い感謝 合掌
文責 柴田久美子