
看取り士日記(362) ~最高のラスト~
父には「最高のラストを飾ってあげたい」
それは、数年前にお母様を看取った一人っ子の息子様からのご連絡だった。「父は小脳多系統萎縮症という神経系の難病でかかりつけ医からは、もう長くないでしょうと言われています。今まで入院していたのですが、父の希望は家に帰ることでした。医師からは、自宅で過ごすのはとても難しい状態です。もし自宅で過ごすなら人が寄り添っていない状態を1時間以上作ってはならない」と。
息子様はこの「1時間ルール」を守るため、毎日、昼間も夜間も看護師かヘルパーに入ってもえる事業所を探された。だが全ての枠を埋めることはとても難しく、自分の仕事のスケジュールを調整しながらの対応となった。
「母が亡くなった時、あまりにも早かった。息子として、もっとたくさん色々なことをしてあげたかった気持ちがそこに残っていました。だから父の時はできることを全部してあげたい。」と息子様の強い想いを感じた。
訪問する日を迎え、はじめてお父様にお会いしたとき、すでに病気の影響で嚥下はできなく、身体のいろいろなところの筋肉が硬くなり始めていた。そんな中、話かける声には反応をみせてくださったり、握った手を握り返して下さる。受け入れてもらえたことに感謝の気持ちが込み上げてきた。
2日後、お孫様のダンス発表会、会場に向かう前に御家族みんなでおじいちゃんの所へ寄って、「これから発表会に行ってくるね」と伝えられる。会場にいた息子様が看護師さんから亡くなった知らせを受け取ったのは丁度、お孫様の演目が終わった時だった。
ご家族の皆様が集まり、お孫様たちはベットの上のおじいちゃんに抱きついたり、添い寝したりといつもと変わりない距離感でおしゃべりされる。
みんなの愛がお部屋を暖かく包み、息子様の膝枕で眠るお父様の表情は穏やかで、にっこりと笑っているようだった。御縁を頂き感謝 合掌
担当看取り士 清水 和土
文責 柴田 久美子