看取り士日記 (265) ~青春の喜び~
庭のクロッカスの花が咲き出した。クロッカスの花ことばは青春の喜び。
看取り士のご依頼を受け4ヶ月。月1度の訪問を重ね、旅立ちの日を迎える。
お母様の呼吸が乱れていると娘さんから連絡。お声をかけてもほとんど反応がない。呼吸は浅く肩で息をしているという状態。
お母様に触れて呼吸を合わせる。残された時間はそう長くはないとはっきり感じた時に、旦那様がデイケアから駆けつけて下さる。
認知症の旦那様で状況をどこまで理解して頂けるのだろうと心配したが、それは余計な事。「どうぞ声をかけてあげて下さい、触れてあげて下さい、抱きしめてあげて下さい」とお話しすると、照れや戸惑いなどなく、自然に抱きしめられる。「愛しているよ。楽しい人生だったね。ありがとう、ありがとう。子供達もみんな感謝しているよ」と。
ふと気がつくと、幸子さんの頬がぽっとピンク色になっていた。息を合わせる時は「ちょっと難しいね」と笑いながら合わせてくださる。
そうして、旦那様がいらして1時間半程経った頃、とても穏やかなお顔でゆっくり息を切られる。優しく抱きしめ頬を合わせながら「ありがとう、幸子のお陰で幸せでした」と何度も何度も言葉にして伝えられる。
息子さん夫婦が到着されたのはそれから1時間半余り経った頃。息子さんがその手を握って、「まだ温かい!」と嬉しそうな顔をなさる。「間に合って良かったですね」と言葉をかける。
息子さんがお父様に最期の様子を尋ねられると、ちっとも苦しそうではなかったと、いつ息が止まったかわからないほど穏やかだったと、にこにこしながら何度も何度もくり返してお話になる。涙あり、笑いありの出来事全てが感謝へと変わる。そして、青春の喜びがそこにあった。
担当看取り士からこんな言葉が届いた。
言葉で伝えるのは難しいですが、愛と感謝に溢れた空間を全身で感じる事ができました。この経験は、私がこれから生きて行く上で大きな糧になるでしょう。看取り士になって本当に良かったと思っています。
看取りはこんなに素敵な仕事です!
看取りの場面は愛にあふれていることを、また命がけでお教え下さった幸子さんに感謝 合掌