看取り士日記(306)~祖父から孫に渡す宝物~
梅雨明けの空は快晴で清々しい風が吹いていた。
「小学5年生の娘に、看取り学初級講座を行ってほしい」とのご依頼。
関東圏で一人暮らしをしている依頼者様のお父様が、脳腫瘍の転移や不全麻痺もあり、ご依頼者様の住む近くの施設に転居予定。予測以上に進行しており、担当医からは月単位で考える段階とのことであった。
「おじいちゃんの旅立ちの前に、死の勉強をさせたい」と。その後コロナウィルスの影響もあり講座の開催は8月となった。
遅い梅雨が明けた8月初旬。小学生の娘さんに午後から看取り学講座を開催するという早朝、依頼者様よりご連絡が入る。呼吸苦意識レベル低下し呼吸状態悪くなったと報告があり、また6時過ぎに旅立たれたと再度連絡が入った。
コロナの影響で施設へ入ることも厳しくなっている中、看取り士が入ってもよいと許可をもらえたので来てくださいと連絡いただく。
「到着するまでの間、以前お伝えしたお看取りのポーズをなさっていてください」と話して訪問する。
着いたときには居室のベッドで娘さんの膝の上で、とてもきれいなお顔でお父様が眠っておられた。その傍には小学5年生のお孫さんが座り、看取り学を学ぶ前に、お看取りのポーズから実践することに。これも旅立つ方のプロデュースかもしれない。
「熱いね。ホッカイロみたい」と、しっかりと祖父から孫へ命のバトンを渡す場面に立ち合わせていただいた。
やわらいだ光に包まれた空気の中の会話、一番喜んだのは孫の誕生日プレゼントを買いに行った時だったとのこと。どれがいいかなと手を伸ばして洋服をみてとてもうれしそうだった。モスバーガ―も食べた。アロマセラピーもとても気持ちがよかったと話されていたという。
娘さんが見せてくださったスケジュール帳には、お父様の転居後のスケジュールがびっしりと書かれていた。娘さんがお父様のために全力を尽くし、最期は慣れない地への転居でも大満足されたと、お父様の表情から感じる。帰る際、お父様に挨拶をすると、それに応えるように瞼がパチンと動いたことは今でも忘れない。
お祖父様からお孫さんに、最大の贈り物「いのち」を手渡す場面に立ち会わせていただいたことに感謝、合掌
担当看取り士 阿部江美子
文責 柴田久美子