看取り士日記(331)~家族の絆の中で~
雨に紫陽花が映える6月、「看取りについて話を聞きたい」と一本のお電話をいただく。
長年肝臓を患っておられたが、5月に体調が急激に悪化し、肺炎で入院されていた正男さん(78歳)。
娘様より「衰弱が見られるため本人希望の通り、大事にしてきた家で最期までのんびり過ごしてほしい。兄弟妹や娘達に尽くして生きてくれた」との思いをお聞きする。
在宅診療医も決まり、退院前日に契約となる。
当日ご様子伺いに行くと、ベッドの周りには奥様、娘様、お孫さん達に取り囲まれ賑やかで、時折開眼、発語見られる。孫娘様が「病院を出る時、じいじがガッツポーズしたんです。介護タクシーで家に戻る途中、いつもしていた畑に回って帰って来ました」と教えてくださる。
12日目の朝、ご様子伺い。3時間が経とうとする頃、呼吸が変わる。
奥様が切ったスイカを持って来られ、長女様がお父さんの歯にスイカをこするようにして汁を流し込むように口に含ませる。もう一口。正男様も分かったのか笑顔になる。「ゴクン」と飲み込んだ瞬間、皆から歓声が上がる。それから呼吸の間隔があいてすぐに旅立っていかれた。
皆さんに触れていただき、どんなお父様だったかお聞きする。
涙の後に笑いあり、また涙で話が尽きない。「働き者でいつもみんなを喜ばせてくれた」「東京オリンピックの聖火リレーで走った時に、沿道に見に来てくれた」「野菜がいっぱい採れた時は会社まで持って来て恥ずかしかった」等々、賑やかにお話しされる。
看取りの作法でゆっくりと家族の時間を共有され、尊い時間を過ごしていただく。
部屋には家族で出かけた家族写真や、正男さんへのメッセージが飾られており、家族の絆が伝わってくる。
後日訪問させていただくと三女様が対応してくださる。
「後悔はいっぱいあるけど、看取りの作法のおかげで救われた気がします」
家族の絆を深め、命の尊さを教えてくださった正男様に感謝 合掌
担当看取り士 源谷千代
文責 柴田久美子