
看取り士日記(361) ~10年の時を越えて自宅へ~
施設で暮らす母に寄り添ってほしいと海外で暮らすご長男さまからのご依頼。なぜ看取り士派遣を希望されるのかを伺うと「父が亡くなった時のことがずっと悔やまれている。母の時に同じ思いはしたくない。」とのこと。
施設へお訪ねすると、10年以上前にご夫妻で入所され、先に旅立たれたご主人のお話を聞かせてくださった。「優しい二人の息子がいて幸せだ」と、穏やかな表情で話された。
その後、発熱から入院され、一日も早いご回復をみんなで祈っていたが、「今朝、母が亡くなりました。クリニックには霊安室がないので、葬儀社に移されます」とのこと。
ご相談を受けた際にご長男さまに伺っていた気持ちが頭をよぎり「ご自宅に帰る選択肢はなくてよろしいのでしょうか」とお尋ねしたところ、ご兄弟で話し合われ「母は自宅へ帰ることになりました」と連絡を受け取った。
お母さま、どんなにか嬉しい事だろうと思いながら、急ぎ病院へ駆けつけると、お母さまは1人で寝ていらっしゃった。葬儀社さんと弟さまのお迎えを待ちながら触れさせていただいた。
ご自宅へ戻ると、そこは10年以上時が止まっていたかのようにお母さまがお暮らし当時のままだった。その夜は弟さまがお母さまを独占して二人きりで一晩過ごされた。
翌日伺うと昨夜とは一変、そのお部屋は大きな窓に庭木の緑が明るいお部屋で、小春日和の穏やかで心地よい風がカーテンを揺らしていた。「ここよ ここが私の家 ここに帰ってきたかったの」と、お母さまの声が聞こえる。
翌日、帰国されたご長男さまに、プラスの死生観をお伝えし、お母さまを抱いていただく。そしてその夜は、ご長男さまがお母さまを独占して一晩を過ごされた。
最期は二人の優しい息子さまとご自宅で過ごされた時間、お母さまの願いが叶ったことに安堵する。
ご縁をいただいたことに心から感謝
合掌
担当看取り士 小日向美千代
文責 柴田 久美子